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新宿御苑の桜

三月下旬、気の合う友人と新宿御苑まで桜を見に行った。実は東京へ来てからちゃんと『花見』をするのは初めてだった。

小さいと頃山に囲まれた田舎に住んでいたので、その季節になると近くの土手一面に見事な桜が咲いた。母と小さかった弟とその辺にあるベンチや平らな石の上で静かお弁当や三色だんごを食べたりするのが普通だった。

こちらへ越して来てから、いわゆる桜の名所と呼ばれる場所へ出かけてみたが、のんびりした一家がついた頃にはすでにシートを広げる場所はなく、人混みの中でお弁当を食べる花見客をしり目に帰宅した。

それ以来、だんだん花見に興味がなくなっていた。だいたい桜が見られる頃は結構肌寒くて、靴を脱いで敷物の上に上がると足元が冷える。周りの人との距離が近く、声や様子がなんとなく気になって落ち着かない。大きなシートの上で賑やかにしている団体は楽しそうだけど、私はそういう雑多な盛り上がりは苦手なので遠い世界のように感じた。外国から来た友人に「お花見はしましたか」なんて聞きながら。

そんな中で誘われた花見なのだが、久しぶりに友人たちに会いたかったのでそちらを目的に参加した。案の定、新宿門の前には渦のような行列ができている。門の前では酒類を持ち混んでいないかという確認をするためかばんの中を見られた。そうか、ここでは桜を見ながら一杯楽しむなんてこともできないのかと軽く落ち込んだ。

友人たちはすでについていた。3人揃ってベージュのトレンチコートだったので可笑しかった。どんな人混みが待っているのだろうと怯えていたが、御苑は圧倒的に広くて、十分な空間があった。湖の近くの緩やかな芝生の坂の上に、友人は大きい薄緑のシートを広げた。家で丁寧に淹れた花の匂いがするハーブティーとフィナンシェを出してくれた。どちらもとてもおいしくて、春の味がした。足元はやっぱり寒かったけど、夫が出かける間際にくれた足用のカイロと友人たちとの楽しい会話のおかげであまり気にならなかった。お酒を飲んでいる人がいないので、みんなほどよく盛り上がっていて、安心できる。これが東京の桜の楽しみ方か。満開で、美しかった。

実は桜を見ると少し寂しい感情が湧く。通っていた学校にあった桜を思い出すからかもしれない。すっかり合わなくなった同級生の顔や、最後に制服に袖を通した日、最後の学生の日を思い出してて切なくなる。ただ「桜、綺麗だね」と幸せな気持ちになれる人になりたいものだ。

ということで、意外と良かった新宿御苑の桜だった。来年はお弁当を準備して、家族も連れてきたい。

 

 

Chiyo

日本語研究家、ブロガー、母1歳。 関西出身。神奈川育ち。20歳の夏カンボジアで出会った日本語ペラペラの現地ガイドに衝撃を受け日本語教師の道へ。慶應大学卒業後シンガポール3年半→フィリピン半年→共同通信系(アジア経済)記者→日本語別科助教。 2018.9.13 結婚、セブにて挙式 2019.11.21 女の子出産 お仕事の依頼はブログのお問い合わせフォームからお願いします!

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